4:「リスクリダクション」の重要性

統計が示すリスクに取り組んでみる価値

環境、自律神経、食というのは、その時代の経済や社会情勢をも反映するもので、同じ時代に生きる人は皆、この3つについては似た状況にあることが多いと言えます。アトピー性皮膚炎の要因としてこれらが全く関わっていない人もいるかもしれませんが、ほとんどの人はこれら3つの要因を、最大要因ではないにしろ、持っているはずです。 実際、アトピー性皮膚炎の治療と並行して、これらの対策を行うとアトピー性皮膚炎の症状が軽減されるケースは多くあり、一部のクリニックではそうしたセルフケアに関しても指導し、症状の軽快を早めるアドバイスをしています。 では、環境、自律神経、食に関するセルフケアについて簡単にご紹介しましょう。

住環境への対処:掃除のポイント

[身の周りのリスク因子を減らすことも大切]

栄養や生活リズムが整って体力や腸内環境、自律神経バランスが改善されると、それに伴って皮膚炎の発症の程度や頻度は下がってくると思います。こうした体内環境への対処でアレルギーの発症しやすさを抑える一方、外部環境における対処を行うことも大切です。これは主にアレルゲンになりやすいものとの接触頻度を減らしていくということですが、まず住環境を清潔にしておくことが挙げられます。
ダニやホコリ、それらにつくカビもアレルギーを誘発させる原因として決して無視できない存在です。近年の住まいは密閉性が高く、そのおかげで防音、遮熱などにおいては非常に性能を上げています。しかし、日頃から換気を心がけないと室内は湿度が上がりやすく、それに伴ってダニやカビなどアレルゲンとなるものが増加しやすくなります。
ホコリは一見すると乾燥したもののように見えますが、皮脂や空気中の水分、油分を吸着し、カビや細菌の繁殖場所としては格好の素材なのです。日頃の掃除でこまめにホコリを取り除くことは、カビを減らすことにもなっているのですね。
男性も女性も外で働く機会が増え、ゆっくり毎日掃除できないという人も多いでしょう。掃除や片付けは習慣化させないと、なかなか一度にはできないものです。また、今度と先送りしている間にホコリは確実に溜まりますし、ダニやカビは繁殖していきます。
そこで、普段から短時間で掃除をしやすいように家具や物を配置したり、掃除道具を揃えておくと良いです。家具の配置次第で掃除のしやすさは変わりますし、適した掃除道具があるかないかでは、かかる時間に大きく差がつきます。
さらに、日頃、家を留守にしがちの人は、寝具やソファなどの素材についても注意が必要です。閉め切った室内は温度、湿度ともに上がりやすく、ベッドやソファは、ダニ、カビともに繁殖しやすくなります。できるだけ手入れの簡単なものを選ぶようにしておくのがオススメです。ただ、それでも掃除をせずに済むわけではありません。定期的にカバーを洗濯したり掃除機をかけるなどして、清潔にしておく必要があります。

生活圏に応じた対策を

さらにもっと範囲を拡大して、居住エリアから受ける因子への対策についてお話します。
各地域にはその土地が持つ様々な特性があり、そこに住んでいる人間は少なからずその影響を受けています。 特に差があるものに水道の仕組みがあります。水の利用は土地ごとに様々で、湧き水を使っているところもあれば川から取水しているところもあります。井戸を掘って地下から取っているところもありますし、湖から取っているところもあります。 水源の違いは当然、水質の違いにもなり土地ごとに水の成分は微妙に異なります。水道を通じて供給される水は衛生的である必要がありますから、水の成分は常に監視されていて、必要に応じて殺菌のための塩素処理が加えられ配水されます。元々の水の成分が土地によって違いますから、土地ごとに塩素濃度は異なります。
実は、この塩素処理によって発生した水道水中のトリハロメタンが、アトピーの発症に関与していると指摘する声は少なくありません。トリハロメタンとは、原水(水道水に使用するために採取した水)に元々含まれていたものに、塩素が反応することでできる化学物質です。 トリハロメタンが体内に多く入ると、腸内環境を悪化させたり発ガン性もあると指摘する人もいます。 普段利用している水の塩素濃度が高いと思われる方は、浄水器などを使ってトリハロメタンの除去をされると良いです。
また、水だけでなく空気も土地によって異なります。都市部や工業地帯の近隣では、交通や工場排気などによる大気汚染が発生しやすいですし、近年では外国から運ばれてくるPM2・5も関心を呼んでいます。 大気汚染物質もアレルギー発症に関わっていると考える医師や研究者は多く、特にディーゼルエンジンから排出される物質や排気が呼吸によって体内に取り込まれ、アレルギーを誘発するのではとされています。幹線道路近くに住んでいる場合は、空気清浄機などを利用した方が良いです。
これらのような居住エリアから受ける因子については、思い当たるものがあれば気をつけてください。 しかしながら、これらの完全な排除は難しいのも実状です。あまり神経質になっても生活できませんし、ほどほどに心がける程度で、かつ可能な範囲で行うのが良いと思います。

運動と呼吸を意識して行う

アレルギー症状の発症には自律神経の働きが関わっていると考えられていて、自律神経バランスを整えるための方法についても研究がされています。
自律神経バランスを整える方法としてまず最初に挙げられるのは、適度な運動と睡眠のバランスをとることです。副交換神経のほうが強くなっている傾向にあるなら、日中の活動量を増やして交感神経側への傾きを取り戻し、副交感神経側への過剰な傾きを補正します。自律神経は本来、私たちの意志ではコントロールできない神経に属しますから直接どうにかすることはできませんが、このように活動と休息の時間をきちんととり、メリハリのある生活をおくることで、間接的にではありますが自律神経に働きかけ、本来の生体リズムを取り戻して免疫のバランスも整うと考えられています。
また、最近では運動以外にも呼吸法や体操、マッサージや経絡(ツボ)なども注目されています。とくに呼吸は自律神経への作用が早く現れるとされていて、瞑想などもたいへん注目されています。

[コラム]現代の食生活で気をつけたいポイント

アレルギーを起こしやすくするリスク因子には、現代の食生活に潜むものも多くあります。こういったものについての知識をもって注意することも大切です。

①食べている油のバランスが悪い →
詳しくは「EPA」第四章「アトピーにも立ち向かえる、肌に効く14の栄養素」の「知っておきたい栄養素⑦ EPA(エイコサペンタエン酸)」にて

②糖の摂取量が多い →
詳しくは「すい臓」第四章「アトピーにも立ち向かえる、肌に効く14の栄養素」の「膵臓 ~膵液を作り腸内吸収を助ける~」にて

③食品添加物が多い
食品には長く保存したり見た目をより良くするために、化学的に合成された添加物が使用されることがあります。添加物は基本的に人体に害のない量や質のものが使用されますが、これらの中に腸内細菌を減らしてしまう作用のあるものもあります。できるだけ天然のものを選びましょう。

④ポストハーベストが多い
ポストハーベストとは、野菜や肉類、魚介類などの生育過程、輸送過程などで用いられた農薬や抗生物質などを指します。現代社会における大量生産や遠隔輸送が一般化した食品流通においては、これらがいくらか入ってしまうことは避けられない部分もありますが、ポストハーベストに含まれる成分が体内に入って悪さをする恐れも指摘されています。 できるだけ地元の食材を利用するなどして体に入れない努力をしたいものです。やむを得ず使用しなければならない時は、きちんと処理をしたり、ものによっては思い切って食べないという選択肢もあって良いのかもしれません。

⑤環境ホルモンが多い
化学合成樹脂で作られた容器などからにじみ出るといわれる環境ホルモンも腸内細菌を減らすといわれています。高い温度の食材を入れたり容器に入れたままのレンジ加熱などは避けたほうが良いでしょう。(レンジ可と書いてあっても注意したほうが良いです)

⑥水道水に含まれる塩素、トリハロメタンが多い
腸内細菌叢が薄いと悪玉菌の勢力は大きくなります。腸内細菌を減らす要因は、すなわち悪玉菌を増やす要因ともなるわけです。 近年いわれているのは、水道水に含まれる塩素やトリハロメタンによる作用です。これが体内の腸内細菌を殺してしまい、カンジダの棲みやすい腸内環境に導いてしまっているといわれています。(詳しくは第五章「生活圏に応じた対策を」で解説しています)