1:まずは正確な診断を
かゆみの原因が皮膚にあるとは限らない
適切なスキンケアや手当てを行っても、痒みや炎症などの症状が治らなかったり、一度治ってもしばらくするとまたぶり返してくると、次第に日々の動作や洋服選びなどに影響が出てきてしまいます。また症状が湿疹だとアトピー性皮膚炎の可能性もあります。今や、国民の3人に一人がなるというデータもありますから、誰がいつなってもおかしくありません。しかし、安易に自己判断せずに、かならず専門家に相談するようにしましょう。
前章でご紹介したように、かゆみとなる刺激には、体の外から受けるものと、内側で発生する分子によるものがあります。また、痒みの原因が必ずしも皮膚にあるとは限りません。内臓のどこかで発生した痒み刺激となる分子がたまたま皮膚近くの神経にキャッチされたのかもしれませんし、あるいは脳が何か違う刺激をかゆみと勘違いしているのかもしれません。念のため、医療機関で正確な診断を受けるようにしてください。
日本のアトピー性皮膚炎治療は「治療ガイドライン」に沿うのが基本
アトピー性皮膚炎の診断の際には、患部の視診や、問診が行われ、場合によっては血液検査なども行われます。これらの結果を総合し、診断基準を満たす場合に、アトピー性皮膚炎であると判断され、治療が開始されます。
治療は、多くの場合、日本皮膚科学会、日本アレルギー学会によって作成された「アトピー性皮膚炎(AD)治療ガイドライン」に沿って行われます。 ガイドラインは、アトピー性皮膚炎に関する数多くのデータをもとに、大学や研究機関などの専門医があつまって作った、現時点で最も効果的な治療を行うための、言わばマニュアルで、これがあることにより、日本全国どこの医療機関でも、格差なくアトピー性皮膚炎における標準医療に係ることができるのです。
ガイドラインが示す治療では、①スキンケア、②薬物治療、③発症要因への対処が大きな柱となります。皮膚症状への対処の基本はまず水分保持能力を取り戻し、皮膚組織の正常化を目指すことです。そこで、「スキンケア」がまず基本的な対処となります。 次にスキンケアでは解決しないようなタイプの炎症に対しては「薬物治療」がされます。こうして、患部の重症度に応じ、適した薬剤やスキンケア剤が処方される一方、炎症を導く「発症要因への対処」のための生活改善のポイントについてもアドバイスがされたりします。
ステロイド使用をめぐる葛藤
ガイドラインでは、まず、カユミと掻爬の悪循環を断つことが重点的に行われます。そのためには、まずカユミを抑え、患部の炎症を鎮めることが重要になってきます。この処置において最も効果的なのが患部に直接塗る塗り薬です。
ガイドラインでは、炎症の程度によって薬剤を選ぶよう示されています。軽度であれば、抗アレルギー、抗ヒスタミン作用のある薬剤などで対処しますが、ひどい炎症にはステロイド薬が選択されます。しかし、この薬への抵抗が多くの患者にある、という現実があります。かつて1980~1990年代ころに、アトピーのステロイド薬における重篤な副作用について、広く報道され、話題になりました。それまで、ステロイド薬に副作用があることなど知らないまま、処方されるステロイドを漫然と使用していた人がほとんどだったため、不安は一気に広がりました。
実際、ステロイド薬を長期にわたって過剰に使用することは、危険な行為です。患者側の認識も不足していましたし、医師側の説明も不足していました。これを教訓に、ガイドラインにも示されるように、処方する際のステロイド使用における説明が徹底されるようになりました。